成果を上げながらチームを成長させるモブワークのススメ
はじめに
今回のテーマ
は、「成果を上げながらチームを成長させるモブワークのススメ」です。AgileJapan2018 Woody Zuill氏の基調公演内容をコアに、スクラムマスター目線の経験と私見を交えてまとめました。
モブプログラミングに限らず、全ての知的作業でモブワークを試す価値があるとぼくは信じています。ここで言う「モブワーク」は、「作業者が一人いて(ドライバー)、必要な知識を持つ人(ナビゲーター)が同じ時間空間にいる」ものだと捉えてください。
今ここを読んでくださっているあなたは、モブワーク(モブプログラミング)に興味はあるが体験したことがない、あるいは、実践しているが上手くいっていなくて改善したい、といったお悩みがあるのではないかと想定しています。
そんなあなたのお悩みを少しでも解決して、「(もっと)モブワークやってみよう!」と思えるように背中を押したり、やり方や考え方を改善してもらうことを目指します。
今回伝えたいこと
は、大きく3つあります。
- 「ここが良いのよモブワーク」。“チームで過ごす時間が増える”、“他者の良さを学ぶ機会が増える”、“待ちがなく効果的な作業が可能になる”といった、主なメリットを述べたいと思います。
- 「モブワークの落とし穴」。“チームを崩壊させる危険性がある”、“メンバの責任感が薄れる危険性がある”、“学びの効果は減衰する”といった、主なデメリットを述べたいと思います。
- 「みんなやろうよモブワーク」。“チームの状態によって気を付けるポイント”や“モブワークの対象としてオススメの作業”など、良し悪しを把握した上でどう活用すると良いのか、実体験を交えて私見を述べたいと思います。
メリットデメリットについては、作業を分担した場合とモブワークした場合との対比を示していきたいと思います。
なお、モブワークの具体的な方法については以下の書籍が参考になるので、読んでみてください。
ここが良いのよモブワーク
モブワークの良さ
は、大きく3つあります。
- チームで過ごす時間が増える
- 他者の良さを学べる
- 待ちが無く効果的に作業が進む
1.チームで過ごす時間が増える
必然的に同じ空間で過ごす時間が増えます。チームの関係性の構築に、おおいに役立つはずです。ただし、チームの成長段階※によっては、一時的に生産性が下がる時期もあるでしょう。いずれにしても、時間と作業を共有しながらアウトプットしていくことは、良いチーム作りに貢献します。
ちなみに「2.学び」も「3.待ちがなく」についても、チームの成長段階に合わせて効果は増減します。
チームの成長段階(タックマンモデル)については、以下のサイトの解説が分かりやすいです。参考にしてください。
仕事ができる人は「正しい衝突」が超得意! | 30代から身につけたいキャリア力実戦講座 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
一方で、作業を分担した場合は、時間と作業を共有せずアウトプットすることが多くなります。チームの関係性の構築には、他の手段に頼らざるを得なくなります。
チームの関係性の構築としてしばしば用いられるのが「飲みニケーション」だと思います。ただし、飲みニケーションでは時間は共有しても、作業は共有しないことが多いのではないでしょうか。ただ時間だけが過ぎ、気付けば愚痴しか残らない……あるあるではないでしょうか。こんな会では、チームの関係性作りには、あまり役に立ちません。
2.他者の良さを学べる
モブワークでは、ドライバーの作業の発想ややり方などのプロセスを、操作や会話を通じてナビゲーターに公開することになります。「もっといいやり方あるよ」というアドバイスがナビゲーターから出たり、逆に「そんな方法あったんだ!」という気づきがドライバーからナビゲーターに向けて共有されることも期待できます。
一方、作業を分担した場合、作業者個人の「プロセス」「ノウハウ」はオープンになりません。ノウハウを意図的に伝えない限り、相互の学びは発生しません。
3.待ちが無く効果的に作業が進む
モブワークの重要な勘所は、この「待ちが無く」という点です。作業にあたって、必要な知識を持つ人を集めましょう。これが出来ない場合、モブワークの意義が半減します。少し、事例を交えて解説します。
ある作業をしていて、分からないことが出て、手が止まりました。先輩に質問すれば解決しそうです。作業を分担して、並行作業している場合、先輩の作業を止めてしまうことになるので、キリの良いところを待つことも多いでしょう。
こういった「質問によって滞る時間」を「QuestionQueueTime(以下、QQT)」と呼びます。
モブワークの場合、なんと幸いなことに、先輩が質問に答える役割を追って、その場にいます。QQTを発生させず、作業に戻ることができました。
このQQT、ただの待ち時間じゃないの?と捉えてしまうかもしれません。しかしQueueは「ムダの根本原因」とも言われており、未完了の作業の在庫を抱えることによる弊害が起きていることも把握しておく必要があります。人間は一つのことに集中して取り組み続けると、「Flow」と呼ばれる没入状態に入ります。この状態になると、人は力を発揮します。仕事や趣味問わなければ、没入して充実した時間と結果を得た経験を、誰しも持っているのではないでしょうか。未完了の作業の在庫を抱えている状態で、別の作業に集中して「Flow」に入るのは、なかなか難しいです。ぼくには出来ません。
モブワークは、全員で一つのことに取り組み、Flow状態を作ることを目指すプロセス、とも言えるでしょう。
一方、作業を分担した場合、並行作業が可能になるため、一見して効率よく作業出来ていると感じるかもしれません。ただし、作業の有識者のレビューがボトルネックになったり、そのボトルネック解消のために綿密にスケジュールを組むコストが発生したり、あるいは分担時の意思疎通が足りず手戻りが発生することもあるでしょう。
ボトルネックが発生した場合、ただ待つのはもったいないので、他のタスクに着手するでしょう。これがマルチタスクの正体です。Queueに作業が残ったまま他の作業を進めても、Queueに残った作業が気になって作業が捗らない、という経験があるかたも多いのではないでしょうか(上司の資料レビュー待ち、とかね)。
分担して並行作業してマルチタスクする、というプロセスは、QQTが多く発生するプロセスだと言えます。QQTをはじめとした、分担した場合に発生しうるコストは、計画上考慮されていないことが多いのではないでしょうか。
モブワークの落とし穴
これらのメリットが見込める一方
で、副作用もあると考えています。
- チームを崩壊させる危険性
- メンバの責任感が薄れる危険性
- 学びの効果は徐々に薄れていく
1.チームを崩壊させる危険性
チームの意見が衝突を続けるような、タックマンモデルで言う「衝突期」にモブワークを多用すると、チームの崩壊を促してしまうかも……
一方、同じ時期に作業を分担した場合、個人作業を行っている間に冷静さを取り戻せる可能性はありますね。
2.メンバの責任感が薄れる危険性
作業を共同で実施していくと、メンバ自身の自覚なく「あのベテランがいるから、自分はミスを多少見逃しても大丈夫」というように、責任感が薄れる方向に心理が変化してしまう可能性があります。
一方、作業を分担した場合、自分のミスは自分の責任となるため、責任感に対する心理変化はシンプルになるでしょう。
※当然、個人の特性に依存してくる部分は残りますが。
3.学びの効果は徐々に薄れていく
長く同じチームでモブワークを続けていくと、気心ややり口が知れてくるため、新しい発想やノウハウの気づきは徐々に減っていくでしょう。モブワークを続けていれば、メンバの学びが単純に得られ続けるものでは無いと考えています。
一方、作業を分担した場合ですが、基本的には独自に学んでいくスタンスになるかと思いますので、学びの効果は個人の特性に依存するでしょう。別の言い方をすると、一人一人のメンバをケアしなければならない、とも言えるかもしれません。
メリデメを考慮した活かし方
良いところと落とし穴とを加味
すると、こんな使い方が良いと考えています
常に意識しておくべきこと
メンバを否定し合うことなく、建設的に意見できるチームの状態を維持しましょう。
※いわゆる「心理的安全性」は絶対必要です。
チームが発足したばかり(形成期)
チームで過ごす時間を増やし、関係を作る目的や成功体験を積む目的で、モブワークを導入してみませんか。以下のような内容がおすすめです。
- 単純作業以外で、作業量が大きくないもの
- 頻度を多く持つ
- 例えば、チームのグランドルールの初版や、プロジェクトの計画・作業の計画など
- 経験上、形成期から先に進まないチームも多いように見えています。本音で語り合う経験を得て、次の段階に進むことを目指します。
メンバ間の少し関係ができてきて、ぶつかり合っている(混乱期)
いがみ合いが発生する可能性があるこの時期にこそ、ハレーションを抑えつつ深い関係作りを進めるために、モブワークを活用してみませんか。以下のような内容がおすすめです。
- 単純で小さいが、工夫の余地が残るもの
- 頻度を減らしたり、メンバ構成を工夫したりする。ここで言う「メンバ構成の工夫」は、仲良しグループでまとめる、といったことではありません。程よくぶつかり合えるメンバを、少人数でまとめていくイメージ ※言うは易し、ですが、、、
- 例えば、チーム内で細分化された課題やタスクなど
- 経験上、「頼れるパートナー、良き相談相手」が「全員に」存在する状態が作れると、チーム全体として混乱期を乗り越えやすい感覚があります。
チームの目標が一致し、自然なルールが浸透(統一期)
チームで挑戦し、困難を乗り越え、あるいは成果をチームとして実感する目的で、モブワークを活用してみませんか。以下のような内容を扱ってみてはいかがでしょうか。
- 複雑で大きいもの
- 頻度はチームの判断に委ねても良いかもしれません。どう作業すれば効果的か?チームが判断できるようになっていることに期待したいですね。
- 例えば、プロダクトの肝となる機能や、チームが求められる成果の目玉の部分
- 経験上、統一期まで来ると、モブワークの経験があるチームは自然とモブワークを始めます ※モブワークを知っているチームにとってこの状態になると統一期と呼ぶ、とも言えるカモ
リーダーの指示なく自律的に動き、成果が出続ける(機能期)
チームの成果を最大化するために、どんどんモブワークしてください。
- 個人で作業すると、QQTが発生するもの
- 頻度は↑の比率次第
- 意識的に学びを共有する会を増やすなどすれば、慣れた頃に起こる学びのマンネリを減らすことができるのではないでしょうか。とは言え経験上、この段階まで来ると、特段言えることはありません。学びの共有会も、必要であればチーム内で自然発生することでしょう。
まとめ
今回は、「成果を上げながらチームを成長させるモブワークのススメ」をテーマに、次の3点についてお伝えしました。
モブワークの良いところ
- チームで過ごす時間が増える
- 他者の良さを学べる
- 待ちが無く効果的に作業が進む
モブワークの落とし穴
- チームを崩壊させる危険性
- メンバの責任感が薄れる危険性
- 学びの効果は徐々に薄れていく
みんなやろうよモブワーク
- 常に意識しておくべきポイント
- チームの状態ごとの導入方法と、気を付けるポイント
最後に、AgileJapan2018 Woody Zuill氏の基調講演から、印象的だった言葉を紹介して、終わりにしたいと思います。
Efficiency = Doing things Right
効率とは、物事を正しくやること
Effectiveness = Doing Right thing
効果とは、正しいことをやること
「『Efficiency』を追い求めると、人は『Busy』になっていく。『Effectiveness』を追い求め、今やるべき『Right thing』はなにか?考え抜く必要がある。」
今回は以上です。
お読みくださり、ありがとうございました!
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